らんどくなんでもかんでもR

はじめまして。文学や美術、音楽、そして猫のブログをしています。 よかったら、のぞいてみてくださいね。 Nice to meet you. I write about literature, art, music, and cats.

「頭ならびに腹」横光利一

「真昼である。
特別急行列車は満員のまま全速力で馳けてゐた。
沿線の小駅は石のやうに黙殺された。」

特別急行列車の疾走感を感じることができましたか?
自分のイメージ的には新幹線ののぞみとか、
地元限定ネタですが京急快特がこんなイメージでしょうか。
各駅停車の駅を吹っ飛ばして走っていくみたいな。


これは横光利一という作家の作品です。
今でこそ知る人ぞ知るの存在ですが、
戦前は新感覚派に属し、
川端康成の盟友としてかなり有名な作家だったそうです。
新感覚派とは、ごく簡単に言えば、
レトリックを多用し、新しい言語感覚を創造する作風ということみたいです。
冒頭の描写も、擬人法やら比喩表現やら駆使して構成されていますね。

レトリックとは文章における説得の効果をあげるためのテクニックですから、
学校の国語教材等にも用いられることも多々あるようです。
またレトリックを多用することから、
一般人よりも、文学研究者とか文章を書く人に根強いマニアックな人気があるようですね。

話のあらすじとしては、列車が突然線路の故障の為に停止してしまい、
いつ故障線が回復するか分からない不安の中迂回線の列車が用事される。
乗客が迷っていると恰幅のよい紳士が自信ありげに迂回線に乗る。
すると多くの乗客も我先にそれに続く。
しかし列車が発車してからほどなく故障線が再開する。
しかし、その時車内に残っていたのは、車内で唄っていたちょっと頭が?の小僧一人であった。

題名の「腹」とは真っ先に迂回線に乗り込んだ恰幅のよい金持ちの紳士、
「頭」とは「腹」の判断を見て迂回線に押し寄せた群衆のことのようです。

この話は金持ちの判断が常に正しいと盲目的に信じる群集の愚かさを描いた
寓話みたいなものなんでしょうか?

作中列車の疾走する様子や、群衆が1つの生き物のようにうねり動く様子は
細かく描写されていますが、
登場人物の心理描写といったものがほとんど描かれおらず、
常に一歩離れた遠くから対象をながめている印象があります。
作品全体が、ちょっとシュールな白黒無声映画のような感じです。


群集が迂回線に殺到した様子を
「尽くの頭は太つた腹に巻き込まれて盛り上つた」
「満載された人の頭が太つた腹を包んで発車した」
少しテクニカルすぎてわかりにくい文章ですが、
確かに同時代の作品にない「新しい」表現だと思います。

非常に短い小説ですが、随所に見られるレトリックを駆使した文章のインパクトは大きく、
心に残るというより脳に残る作品という感じです。